2020.11.16
【税務調査はいやだ!】書面添付制度とは
税務調査が来なくなる方法があります!
と聞いたら、「ほんまかいな。そんな方法あったら教えてほしいわ!」と思われる方が多いのではないでしょうか。
※東京オリンピック仕様のアポロとマーブルチョコ。来年の五輪はどうなるのでしょうか。
残念ながら、100%税務調査が来なくなる方法はありません。
しかし、税務署が調査先を選ぶ際に、「この納税者はきっちりしているから、調査をしても追徴税額があまり見込めないな。」と思わせることにより、税務調査が来なくなるように誘導することは可能です。
今回はそのような対策の1つである書面添付制度についてお話します。
書面添付税度とは
書面添付制度について簡単に説明すると、「税理士が顧問先の確定申告書の作成に関して、どの程度内容に関与し、各項目(勘定科目)をどのような観点で確認したかを積極的に明示した書面を納税者の確定申告書に添付する制度」です。(税理士法第33条の2)
「税理士の署名のある確定申告書を提出しているから同じでは…」と思われる方も多いかとは思いますが、税務調査に来る可能性という意味では、「書面添付をした確定申告書」と「署名をしてもらっているのみの確定申告書」では大きく変わってくると断言できます。
書面添付の状況
令和元年度の「国税庁の実績報告」によると、「書面添付書面の添付割合」と「税理士関与割合」とは次のような関係になっております。
○ 書面添付の割合
(単位:%)
年度 | 平成29年度 | 平成30年度 | 令和元年度 |
所得税 |
1.4 |
1.3 |
1.4 |
相続税 |
18.2 |
20.1 |
21.5 |
法人税 |
9.1 |
9.5 |
9.7 |
○ 税理士関与割合
(単位:%)
年度 | 平成29年度 | 平成30年度 | 令和元年度 |
所得税 |
20.2 | 20.3 | 20.6 |
相続税 |
84.4 | 85.0 | 85.7 |
法人税 |
88.9 | 89.1 | 89.3 |
所得税となっているのは、主として「個人事業主」や「不動産収入がある方」です。
所得税における税理士の関与割合は約20%に対し、書面添付の割合はわずか1%強しかありません。
一方、法人税については、約90%が税理士と顧問契約又は決算の依頼等により、何らかの関与をしている状況ですが、書面添付の割合はわずか10%弱となっています。
個人、法人とも税理士関与割合に比べ、書面添付の割合は未だ低水準であると言えます。
このような状況の中、書面添付がされた申告書を税務署に提出していると税務調査の可能性がより一層、低くなると言えます。
書面添付制度のメリット
税務署が書面添付がされている確定申告書を提出している納税者の税務調査を予定する時は、税務調査の事前通知をする前に、書面添付をした税理士に対して、書面添付に記載された事項について意見聴取を行わなければならないこととされています。
書面添付をする書面は、売上や仕入、各種経費等の各項目について、「どのようにして内容を確認したか」や「主たる増減理由」について、税理士がきっちり記載した書面になります。
そのため、税務署が税務調査先を選ぶ際に、その書面を見ることにより、疑問点が解決することがあり、その場合には調査が見送られることになります。
また、私の経験上の話ですが、同じような申告をしている2社から1社調査先を選ぶ場合、A社は書面添付がついていて、B社は税理士の署名しかない場合、書面添付の内容を見て、「A社は顧問税理士がきっちり見ているので、今回はB社を調査先としよう」と考えることもあります。
このように税理士の書面添付がついている確定申告書は、いわば税理士が内容をしっかり見た顧問先ですと、税理士が税務署に明示する手段となっていると言えます。
税務署側の視点
税務署側も、次の観点から税務調査をしにくい側面があると考えられます。(ここの項目はあくまで私の私見になります…)
適正公平な課税の実現の観点
国税庁の任務の1つに「適正公平な課税の実現」という項目があり、これを実現するため、税務調査というものがあります。
書面添付制度で税理士がきっちり納税者の申告を確認している場合、税務調査をすることなく、国税庁としてもその目的を実現できます。
そのため、書面添付制度については、国税庁としても積極的に推進しています。
業務効率化の観点
書面添付がされている確定申告書を調査する場合には、先ほど記載しましたが、事前通知の前に税理士に意見聴取しなければなりません。
近年、IT化の進展等により、事務処理の効率化が求められており、税務署も例外ではありません。
意見聴取するためは、税理士との日程調整等新たな手続きが必要になってきます。
書面添付されてない申告書を調査する場合は、そのような新たな手続きは必要ありません。
そういう事務効率化の観点から、追加の手続等が必要とならない「書面添付されていない申告書」についての税務調査を優先することになります。
【注意】調査をしないわけではない
書面添付をしている納税者に対しても、もちろん税務調査をすることがあります。
書面添付をしている場合であっても、納税者が税理士にすべての必要書類を提出している場合は問題ありませんが、一部の書類しか提出していない場合等は申告内容に問題があると考えられるからです。
しかし、税務署側も書面添付をしている税理士に意見聴取をした後、税務調査に移行した場合に全く何も誤りがなかったとなれば、「意見聴取をした後に税務調査を行なうこととした判断に誤りはなかったのか」という話になりますので、現実問題として、税務署側も「確実なネタ」を持っていないと税務署も税務調査に移行することは少ないかと思います。
まとめ
書面添付は、税理士が月次監査を行ない、きっちり申告内容を精査しないと書面添付に必要な記載ができません。また、通常の決算に比べて準備する手間も増加するので、現状ではなかなか上記のように書面添付の割合が増加していないと考えられます。
今後、書面添付が一般化していくことが考えられますが、現在の書面添付の割合が低調な現在の状況下では、「書面添付をしているか」、「書面添付をしていないか」は税務調査の可能性が大きく異なります。
弊所では、原則、顧問契約を行なう顧問先については、2年目以降書面添付を行なっていく方針としています。
税務調査の心配を少なくするためにも、書面添付制度を推進している税理士に確定申告を依頼するなどの方策をご検討されてはいかがでしょうか。